Karamushi Ori
からむし織の産地である、福島県大沼郡の昭和村に訪問してきた。何本ものトンネルをくぐり、山道を延々と続く緑の山道を通り抜けた先に辿り着いた昭和村は、古民家や田畑を周囲の山々が囲む大変美しい場所だった。
そのような豊かな自然に囲まれた昭和村では、生活に必要な道具を地元の素材を用いて自分たちで手作りしてきた。そうした技術の一つが「からむし織」である。現在まで村で暮らす人達の生活とともに親から子へと受け継がれ、各家庭で技術を持った人の手で日々時間をかけて製造している。
からむし織の作品等が展示・販売されている「からむし織の里」に立ち寄りさまざまな製品を見た後、奥会津昭和村振興公社にて、からむし織の歴史や現在の製造・加工の技術について詳しくお話をお聞きすることができた。
「からむし」とは、苧麻(ちょま)と呼ばれるイラクサ科の多年生草本の植物で、上布用の原材料としては本州では唯一昭和村で栽培が続けられており、他には沖縄でも類似の技術が見られるそうだ。昭和村では約600年前に栽培を始められたとされており、以降歴史とともに規模を縮小させながらも存続し現在に至っている。昭和村では30年ほど前よりからむし織を中心とした村おこしに力を入れ、村民全体の努力により、現在では地機で織った織物について県の指定重要無形文化財であるほか、春先の栽培作業に始まり7月の土用の頃から盆前までに刈り取った「からむし」を剥ぎ、一枚ずつ表皮を取り除く「苧引き」(おひき)と呼ばれる繊維を取り出す作業までが国の選定保存技術に選定されている。糸の太さに合わせ人の手で裂き繋ぎ合わせていく「苧績み(おうみ)」を行った後11月頃に手作業で織りに入るという工程は、労力も時間もかかるものである。
そうした根気と熟練を要する手業の集積によって出来上がる「からむし織」は、通気性・吸湿性・透明性に特徴があり、布は軽く丈夫で、初夏から初秋頃にかけて大変快適な素材である。一度経験すると他の織物は着られないという快適さから、「氷を纏っているような衣装」と称されてきたそうだ。また強度も十分にあり、三世代で体になじむ、ともいわれている。糸を太くつむげば頑丈な素材として機能する反面、繊維を大変細く裂くこともできるため、細い糸を用いた上布の繊細さは絹にも勝る高級品だそうだ。
実際に見せていただいて驚くことの一つは、そのバリエーションの多様さである。糸の太さと多様な編み方を組み合わせた、特徴的な布をいくつも見せていただいた。染色としては天然の藍染の他、化学染料を用いているそうだが、からむしの素材自体の持つ風合いや色の誤差が影響し、独特の風合いが保てる。製品としても着物や帯を始め、帽子から小物、シャツ、タペストリー等、それぞれの機能に合わせた織によってデザインがなされる。
一通りお話をお聞きした後、「苧績み」を行っている方の自宅での作業を見学させて頂くことができた。お話したマキさんは86歳になるそうだが、昭和村ではそうした方々が現在11人糸を縒り紡いでおり、からむしの生産を支えている。村自体の人口が減少する前、まだ小学校が複数あった頃から学校から帰ると、からむしの糸を縒り、それを自身の人生と昭和村の自然と時間の変化とともにずっと続けてきた、と語るマキさんは大変素敵でたくましかった。
「からむし織」の技術や製品の質は確かであり、さらには現代のデザインを取り入れ外に発信していくことを拒まない前向きな姿勢が村全体に浸透しているように思われた。後継者の減少等の問題は抱えているものの、村の、また福島県や東北・日本の誇れる伝統工芸の一つとして、今後の発展が大変楽しみな素材に出会えた訪問であった。からむしを始め伝統工芸には、その手間のために素材自体が高級で流通しにくいものも多いが、建築やデザインの分野で適切に扱っていくことが充分可能な場面もあるのではないか、そういった方法を考えることが新たなデザインや美しさを発見するきっかけになるのではないか、と私個人は強く考えさせられた。
阿部 真理子
Photos © by Peter Brune